サイト名 Official Interview

『FIGHTING EX LAYER』発売1周年記念インタビュー(第1回)

2018年6月28日、FIGHTING EX LAYER発売から1年——。
1周年を記念して、西谷亮氏と開発スタッフである加藤氏と高野氏にMarinaがお話を 聞かせて頂きました。
インタビューは全3回に分けてお送りいたします。

今回はFIGHTING EX LAYER 1周年記念インタビュー、第1回をお届けいたします。
今まで明かされてこなかったプログレッシブ入力への強い思いや、実装が叶わなかった強氣のお話、 この1年を通して感じたことなど、たくさんの制作秘話や開発裏話を聞くことができました。
第3回ではユーザーさん方から頂いた質問にお答え頂き、キャラクター人気投票の途中結果についても お話して頂きましたのでお楽しみに!
西谷 亮

株式会社アリカ代表取締役社長。
FIGHTING EX LAYERでは、プロデューサーを担当。
好きなゲームは、もちろん『FIGHTING EX LAYER』。


加藤 善嗣

株式会社アリカ開発企画部シニアプランナー。
FIGHTING EX LAYERのキャラクターのチューニング、ネットワーク、CPUなどを担当。
好きなゲームはドルアーガの塔、バーチャⅡ、ストⅡ。


高野 将一

株式会社アリカ開発企画部チーフプランナー。
FIGHTING EX LAYERではキャラクターの作成、パラメーターやフレームの調整、 そしてボイスやサウンドの音まわりを担当。
好きなゲームはRDR2、バーチャⅣ、鉄拳5DR。


Marina

株式会社アリカ業務部。
FIGHTING EX LAYERのオフィシャルTwitterアカウントの中の人(英語担当)で、 オフィシャルグッズの企画・管理もしている。
格闘ゲームは超初心者。今回はインタビュアーに初挑戦です!
発売から1年、ユーザーさんの反応
Marina:
もうすぐFIGHTING EX LAYER (以下FEXL) が発売されてから1年が 経ちますが、反響はいかがでしたか?
高野:
簡単な操作やシステムを入れて初心者でも手触り良くしたつもりだったけど、 あんまり受け入れられなかったイメージ……(笑)
世の中は、俗に言う『クラシック操作』が好きですよね?
自分は個人的に、真空波動コマンドを正確に素早く入れなきゃいけないっていう、 操作の器用さで優劣が決まるのが嫌で(笑)
Marina:
そういう意見があって、今回のプログレッシブ入力を入れることに つながっていったということですか?
加藤:
「世の中も、こういう難しいコマンドってそろそろ嫌じゃない?だから入力を簡単にして、 もっと奥深いものを作ろうよ」っていう意見から始まったね。
簡易コマンドを選ぶことによるペナルティは入れたくなかったから、「プログレッシブでも クラシックでもできることを同じにしよう。その上でプログレッシブの方が簡単だったら、 みんな受け入れてくれるんじゃないかな」っていうのが最初の目論見だったかな。
Marina:
そうだったんですね。
加藤:
実際入れてみたらマニア層に受け入れられたのはポジティブな点だけど、元々馴染んでた波動 コマンド昇龍コマンドでそのまま遊びたいよっていう初心者さんも多かったんだなと感じました。
Marina:
プログレッシブ入力を入れようという意見が初めて出た時、 意見のぶつかり合いはなかったのでしょうか?
西谷:
いやけっこう揉めました(笑)そもそも入れるか入れないかでも揉めたし、入れるんだったら クラシック無しでいいんじゃないの?って加藤くんがかなり強く推してて(笑)
高野:
こういうゲームなんだって押し出すために、プログレッシブだけにしたいっていう加藤くんの 意見に自分はすごく賛成だった。
Marina:
西谷さんはどうでしたか?
西谷:
すごい悩んだね。
やっぱりできない人もいるだろうから、どっちかなって。
あとデフォルトをどっちにするかも揉めた。そもそも名前もえらい揉めたよね?
加藤:
揉めましたね。ビギナーとかイージーモードとか。
西谷:
ユーザーとしては「え、イージーなの?」っていうネガティブな印象をもたれちゃうかなって。
細かいことだけど、それもけっこう揉めた(笑)
加藤:
絶対プログレッシブが良いって反対した(笑)
西谷:
そういう意見のぶつかり合いは、ありましたね。
  • 真空波動コマンド:波動コマンドを2回続けて入力しなければいけない。
  • 波動コマンド:『ストⅡ』によって確立された「飛び道具」の代名詞コマンド
  • 昇龍コマンド:自在に入力するのが難しいコマンドの代表格



試行錯誤を重ねた強氣システム
Marina:
強氣システムはどのような発想から生まれたのでしょうか?
西谷:
元々、モバイルでやろうとしててその時のシステムがあったんですよ。 強氣をなんらかの手段で手に入れて、育てていくみたいな。
でもモバイルじゃなくてPS4で作るよって時に、じゃあそのアイデア生かそうかどうしようかって 考えた挙句、強氣を買ったり育てたりするのは厳しいけど、これは新しいゲーム性を出せるんじゃ ないかなと思って持ってきた感じです。
Marina:
そうだったんですね。
西谷:
カードゲームの要素を格闘ゲームに持ってきたら面白いんじゃないかなって。
元々はバラバラで自分で強氣を組むというアイデアがあったので、そこからですかね。
Marina:
入れたかったけどボツになってしまった強氣はありますか?
高野:
いっぱいありますね。
西谷:
たぶん、3分の1とか4分の1ぐらいにはなってるよね。
加藤:
「すべてのキャラクターが同じ条件で機能するもの」が強氣の一番の根っこになってるから、 このキャラクターだけ特別使えるっていうのはカットしていったね。
西谷:
最初はあったよね。
例えばカイリの神気発動が強くなるとか、必殺技が追加されちゃうとか。
Marina:
それは大胆ですね!
加藤:
『空中チェーンコンボ』っていう空中でジャンプ攻撃が連続で出せる強氣が一時期あって、 強烈に印象に残ってる。
アイデアが出た時からこれは危ないなってわかってたけど、すごい勢いでがんばって調整して……。
でもなにをどうやっても永久コンボが入っちゃって(笑)
西谷:
本当はスカイダンサーに入る予定だったんだよね?
加藤:
ダランは大きいから、どうしてもジャンプの上り際とかに当たりやすいんだよね。
西谷:
小さいキャラクターだとギリギリ大丈夫だったりしたんだけどね。
高野:
ボツと採用の間を行ったり来たりした強氣はたくさんあるね。 インフィニティは無くなりかけたし。
Marina:
そうだったんですか!
加藤:
最初に発動するのが難しいけど、発動したら無尽蔵にスーパーコンボが使い放題な強氣だった。
最初は一瞬でもゲージが空になることが無かったから、永久コンボのオンパレードになってて(笑)
でも面白かったから、なんとかゲーム性が成立するようにできないかなと思って調整したけど、 何をどうやっても無理で今の形のインフィニティに落ち着いた。
Marina:
他にはありますか?
加藤:
実装まで考えたところとしては、昔のアリカの格闘ゲームに存在したシステムは必ず検討自体は してましたね。
例えば『EX3』に存在した『モメンタリーコンボ』や『EX2PLUS』にあった『エクセル』とかを 入れたらどうかなって意見もあった。
だけどUI面での工数の大きさや追加を必要とするもの、ユーザーへのわかりやすさなどを考えて、 ボツになっていったものはたくさんありますね。
  • モメンタリーコンボ:必殺技が当たる瞬間にもう一回ボタンを押すと、 追加で派生技が出る技
  • エクセル:違う強さのパンチボタンとキックボタンを同時押しすると、 スーパーコンボゲージを1ゲージ消費して発動する技
    通常技・特殊技・必殺技を一定時間自由にキャンセルすることができる


意見が割れた、技や強氣の調整
Marina:
これだけたくさんの意見が出ていたとなると、意見が割れて揉めた ことはなかったのかな?と気になりました。
高野:
この3人の中ではすっげぇ割れる(笑)
Marina:
あ、そうなんですね!?
西谷:
バーサーカーデッキもギリギリ最後の削りで揉めたよね。
高野:
揉めましたね。
西谷:
『バーサーカー』っていう相手の体力をガードしてても削っちゃうデッキがあるんですけど、 終盤になってシャドウガイストが3ゲージ使って体力を7割ぐらい削ることが発覚して、 「大丈夫かこれ!?」って。
でも2人は「別にいいじゃん」って言うから「いやいや、これまずいよ!」って(笑)
高野:
連続ガードだったから、一回ガードしちゃうとレバー外してもずっとガードのままだから 半分ぐらい削られたんですよね。
西谷:
いや半分じゃない!7割ぐらい!(笑)
加藤:
価値観の面では、意見が合わないところがけっこうあった。西谷さんが折れたところとして、 疾風の刀を振る『鎌鼬』(かまいたち)っていう技は、弱中強で刀を振るモーションの大きさが 違うんです。
弱攻撃の鎌鼬はけっこう素早い感じだけど、リリースした当初の鎌鼬はもっと振りが遅かった。

それで、疾風をパワーアップさせようぜってことで、高野さんからこんな感じでどうですかって 見せてもらったら今までの倍ぐらいの速度で「鎌鼬!鎌鼬!」ってなってた(笑)
全員:
(笑)
加藤:
絶対ダメだって話になったんだけど、やってみると意外とたいしたことなくて。
西谷:
結局ね。自分からあんまり攻めに行けないから、言うほど強くなかったっていう。
加藤:
我々の中ではちょっと強くしすぎた感じはあるんだけど、一般ユーザーさんからは 「このキャラ全然ダメでしょ」っていう感覚で。
西谷:
一個一個のスペックは全然悪くないんだけどね。
加藤:
秀才キャラって感じですよね。その辺は意見が割れたことを強烈に覚えてる。
疾風の鎌鼬。
高野:
キャラクターそれぞれの強さ弱さ、技の性能ではかなり揉めたね。
キャラクターのパラメーターとかを最初につけて、こんな感じでどうかなって見せると加藤くんが 「これは強すぎるから認められない」って。
それに対して「これぐらい強くないとだめじゃね?」みたいな(笑)
加藤:
約束から飛び出たものを作った方が面白くなるけど、「そういうのはだめだよ!」って揉めたね。
高野:
実際やってみるとダメだったこともあったけど、ダメって言われたからって諦めると、 平坦なものができちゃって面白くなくなっちゃう。
西谷さんはいつも「面白ければいい、極端じゃなければ」って(笑)
西谷:
(笑)
加藤:
でも実際、高野さんはすぐナーフする(笑)
Marina:
ナーフしちゃうんですね(笑)
加藤:
俺と西谷さんは一回世の中に出したものだったら、基本的にこれはユーザーが得た権利だから このままでいいって思うんだけど。
高野さんは動画でそういうの使いこんでブイブイ言ってる人見ると「やっぱこれナーフしようと 思うんだけど」って。逆に今度は俺らが抑える方に(笑)
西谷:
そう。2人で「えぇ~?まただよー」とか言って(笑)
全員:
(笑)
Marina:
ブレアをナーフなさった時、ユーザーの反応は「よっしゃ」っていう 感じでしたよね。
高野:
めくりのシステムありきだったからちょっとナーフして、めくり修正してからは攻撃力を元に 戻したんだけど、あれは難しかったね。
加藤:
一番最初の調整だったと思うんだけど、ユーザーさんから挙がってくる反響に対して、 どれくらいの頻度で要求に応えるべきかの相場観があの時はできてなかった。
ナーフは必要だったと思うんだけど、ちょっとやりすぎた感が今となっては反省点として ありますね。
なので後半になって少しバフしたりっていう感じです。特に最初の強いナーフはダークが けっこう大きかったね。
西谷:
ダークはちょっと戻してあげてもいいかな(笑)
全員:
(笑)
加藤:
一時期話題に上って、それに即対応しちゃうのってユーザーさんのことを考えた上で あんまり良くなくて。少し落ち着いた上で「みんな冷静になってみてどうなの?やっぱり 太刀打ちできないね」ってところまでは少し見てあげたい。
それを使って利益を得てる人たちって、がんばった結果強いと認められるようになったから、 そこをすぐに取り上げちゃうのは面白くないなって。
西谷:
考慮してあげなきゃいけないのは、大きな大会がある時。
直前でパッチが当たると、ユーザーとしては練習し直しになっちゃうので。かなり気使ったよね?
高野:
そうですね。
西谷:
タイミング見て、短いスパンでもなく長すぎもせず、イベントも考慮してやってましたね。
  • ナーフ:パッチやアップデートにより、キャラクターの攻撃力や防御力などが弱体化される ことを指す
  • バフ:ナーフの反対語で、強化されることを指す


デザイナーから上がってきた意見
Marina:
デザイナーやプログラマーとぶつかったことはありますか?
高野:
ゲームバランスの面では、ほとんど無いと思う。
ただ見た目とか技の形状はデザインやプログラマーと話をして、彼らが言ってることが 正しいなと思ったら、そっちにすることもあります。
Marina:
例えばどんなものがありましたか?
加藤:
シャロンは最初、銃にフォーカスを当てたキャラでは全然なかった。
Marina:
そうだったんですか!
加藤:
『EX2』の時は銃を使った技は一部のモーションだけって感じだったからね。
でももっと銃を使うようにしようってビジュアルサイドから声が上がってきたので、 銃を使った技を考えて段々練りこんでいった感じ。
「空中で出せた方がいいよね」「残弾数の制限設ける代わりに一発一発がすごい強いものにしよう」 とか。デザイナーから上がってきた意見を元に企画が技を考えて、それをフィードバックして モーションを作ってもらった。
シャロンのスーパーコンボ。蝶のエフェクトが舞っている。
デザインの方は演出のブレインストーミングがあって、キャラクターごとに炎属性とか 稲妻属性って方向性を決めるらしいです。その属性に沿って、入れる小物や遊びを考える。

シャロンの場合はスーパーコンボの発動時に、オーラをまとった弾みたいなエネルギ-体と、 バラとか蝶のエフェクトが飛ぶ。
プログラマーにも挙動を作ってもらって、こういう挙動にするなら性能もこっちの方が いいよねってやり取りすることはあったかな。
Marina:
デザイナーさんが言い出して下さったおかげで、あのセクシーで かっこいいシャロンが生まれたんですね。


◆Marinaの一言◆

第1回では今まで明かされてこなかった、反響に対する率直な感想や制作時のこだわりと 苦心のお話を聞くことができて、FEXLの1ファンとして嬉しかったです。
個人的にシャロンの見た目と声がとても好きなので、デザイナーさんからの一声のおかげで 今のシャロンと出会えたんだ~良かった~と思いました!

第2回でも、ここでしか聞けないような質問をさせて頂いたので、みなさまぜひお楽しみに~!


NEXT:第2回 開発チームの印象に残った話、アリカの格闘 ゲームのこれから